研究概要 |
角膜に種々の浸襲が加わった場合,角結膜輪部が拡張することは,既に知られている。今回のわれわれの研究において,角膜浸襲後,何らかのシグナルが角結膜輪部血管に伝達され,血管の透過性が亢進することが明らかとなった。さらに,これらの血管より,好中球を中心とした多核白血球がテノン嚢および結膜下に浸潤し,経結膜的に涙液を介し,角膜受傷部に浸潤することが認められた。一方,角膜にに種々の浸襲が加わった場合,角膜実質細胞は細胞死に陥ることが認められたが,これらの一部は,受傷部角膜実質内に浸潤した多核白血球により貪食処理されることが認められた。 一方,受傷した角膜は受傷数時間後より角膜上皮が進展を開始し,再被覆される。血管の透過性の亢進,多核白血球の浸潤は受傷直後より開始され,浸襲の種類,程度により多少の差異は認められるものの,6時間ないし12時間がピークであった。角膜上皮により再被覆されるのは,24時間前後であり,血管の透過性の亢進および,多核白血球の浸潤は,種々のサイトカインや成長因子の放出により,外界へのバリアーである角膜上皮の進展を促すとともに,露出された角膜実質への感染防御という役割を担っているものと推測される。角膜上皮による受傷部の再被覆後は,多核白血球の浸潤はほとんど認められず,一方角膜実質内に浸潤していた多核白血球も自己融解に陥った。 角膜浸襲に対する角結膜輪部の血管の透過性の亢進および,多核白血球の浸潤は受傷初期の生体防御および創傷治癒反応の開始のシグナルと考えられる。
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