研究概要 |
眼内環境の変化によるミュラー細胞の動態を免疫組織学的に観察する目的で,家兎眼硝子体中へ空気,SF6ガス,血清および自家全血液を注入し,経時的に眼球を摘出した。組織標本を作製し,グリア線維酸性蛋白(GFAP),増殖細胞核抗原(PCNA)を指標としてミュラー細胞の活性化状態と細胞分裂について研究した。空気やSF6ガス,血清の硝子体内注入ではミュラー細胞はほとんど反応しないか,軽度の活性化がみられるのみであった。しかし,自家全血液を注入した場合,ミュラー細胞は強く反応した。すなわち注入3日後にはミュラー細胞はGFAP陽性反応を示した。この状態は,血液注入1か月後までは時間の経過と共に増強され,網膜全層にわたってミュラー細胞はGFAP陽性を呈した。その後,GFAP陽性所見は網膜内層に主にみられたが,注入1年後まで陽性反応は持続した。ミュラー細胞の細胞分裂をPCNAを指標として観察したところ,陽性反応は血液注入3日後から28日後まで観察された。しかし,最も多くの分裂細胞が確認されたのは血液注入14日後までだった。血液注入3日後では硝子体腔中央に注入された血液はまだ網膜上に到達していない。このことは,眼内環境の強い変化でミュラー細胞は早期に活性化され増殖を開始することを示している。この活性化された状態は長期にわたって持続した。血液は注入約3か月で眼内から消失する。このことは一度変化した眼内環境は長期にわたり改善されない可能性を示している。そのため,一度眼内に病変が起きると眼内環境は長期にわたり正常化されず,そのためミュラー細胞の活性化された状態が持続する。このことが一度形成された網膜上膜が時間の経過と共に肥厚してゆく原因と考えられた。
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