(研究目的)細胞質シアリダーゼの存在意義を追求するため、本酵素の遺伝子発現が、上皮性歯胚を構成する3種の細胞において、大きく異なる事実に注目し、次の2点を検討した。(1)エナメル髄の上皮細胞が、再び細胞質シアリダーゼを発現すること無くそのライフサイクルを終えるのか否か(免疫および遺伝子組織化学的手法を用いて)。(2)細胞質シアリダーゼの遺伝子発現量の変化に同調するシアロ複合糖質の量的または質的変化が、上皮性歯胚に認められるか否か(レクチン組織化学的手法を用いて)。 (研究結果)ラット第一臼歯のエネメル質の形成前、形成期、成熟期、歯根形成期の上皮性歯胚について観察した。本酵素の発現は、遺伝子組織化学の結果では内外のエナメル上皮に比べエナメル髄において極めて低いが、電子顕微鏡を用いた免疫組織化学(免疫電顕)の結果では同じ程度であった。また、歯牙の形成過程に沿って経時的にみても、本酵素の発現は量的変化に乏しく各時期において同じ程度であった。一方、シアロ複合糖質の量は経時的に変化した。シアロ複合糖質の量は、形成期エナメル芽細胞と形成期初期の中間層細胞においても最も多かった。それ以外の時期、および部位においては相対的に少なかった。シアロ複合糖質の質的変化(シアル酸残基の結合部位が異なるタイプへの変化)は認められなかった。 (考察、結論)本研究で観察したシアロ複合糖質は、主として細胞表面や細胞外基質に局在するものと考えられる。そのシアロ複合糖質の量的変化に本酵素の量的変化が明確に同期しないことから、本酵素が細胞表面や細胞外基質のシアロ複合糖質のライフサイクルに関与する可能性は低いと考えられる。今後は、細胞内のシアロ複合糖質の量的変化に注目し、それと本酵素との因果関係を検討する必要がある。
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