研究概要 |
本研究は,Porphyromonas gingivalis LPSの活性中心であるリピドAが,低毒性でかつ様々な免疫薬理学的作用を発揮するという宿主の免疫応答機構の一端を明らかにするため,同リピドAのヒト末梢血単核球細胞に対するサイトカイン産生誘導機構について,内毒素性大腸菌型合成リピドAのそれと比較し細胞レベルで検討した.すなわち,サイトカイン産生はELISA法,サイトカインmRNA発現はnorthern blotting分析,同細胞内のチロシン,セリン,スレオニンのリン酸化はwestern blotting法によりそれぞれ分析した.さらに,種々のprotein kinase inhibitorを用いて,両リピドAによるサイトカインの産生誘導能の抑制を総合的に調べることにより,これらリピドAのサイトカイン産生の調節機能に関与する情報伝達系の異同を明らかにした.まず,1)P.gingivalisを嫌気的条件下で培養後菌体を集め,その凍結乾燥菌体から温フェノール/水法によりLPSを抽出後,ヌクレアーゼP1による酵素処理および超遠心操作を繰り返し精製した.精製LPSを0.6%酢酸で2.5時間加熱処理後,クロロホルム/メタノール/水/トリエチルアミン混合液を加え分配を実施した.その下層画分をシリカゲルカラムクロマトに供し,リピドA画分を得た.大腸菌型の合成リピドA(compound 506)は,市販品を用いた.2)P.gingivalisリピドA刺激した単核球細胞は,compound 506のそれに比較し弱いIL-1β産生および同mRNAの発現を示した.また,両リピドA刺激した単核球細胞における細胞内リン酸化蛋白の誘導については,種々のチロシン,セリン,スレオニンリン酸化蛋白を検出した.さらに種々のprotein kinase inhibitorを用いて,サイトカインの産生に及ぼす影響について検討した結果,特にP.gingivalisリピドA刺激により細胞内のカルモジュリンキナーゼの活性化が認められた. P.gingivalisリピドAならびにcompound 506によるヒト単核球細胞からのこれらサイトカイン産生誘導ならびにその細胞内情報伝達系の結果から総合的に判断すると,P.gingivalisリピドAの低毒素性は,同リピドA刺激によりヒト単核球細胞内のカルモジュリンキナーゼが活性化されることにより,結果的にIL-1β産生が抑制されるものと推測される.ちなみにIL-1βは,LPSが内毒素性を発揮する際に重要なサイトカインに一つとして知られている.
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