研究概要 |
ヘリコバクター・ピロリは,慢性胃炎,胃・十二指腸潰瘍の原因菌として注目されている。さらに,40歳以上の日本人の70〜80%の人の胃にピロリ菌が感染していることがわかってきた。このようなピロリ菌の正確な感染経路や感染源となる生息環境については,未だに明らかではないが,胃炎患者の胃粘膜と歯垢から本菌が検出されるにいたり(1989年),本菌の伝播経路のリザーバーとして歯垢が関与していることが推察されている。本研究では,ピロリ菌の生態を明らかにするために,1)PCR法を用いた,健康被験者の歯垢におけるピロリ菌の生態調査,2)バッチ培養とケモスタット培養によるピロリ菌の増殖特性の解析を行った。 1) ピロリ菌のウレアーゼ遺伝子を標的としたPCR法を,60名の被験者の歯垢から分離したDNAについて行った。その結果,8サンプルについてDNA断片の増幅が認められた。また,胃炎患者の口腔内10カ所からの歯垢および唾液についても同様にPCR法で検討したところ,下顎歯表面から採取した4つの歯垢試料についてDNA断片の増幅が認められた。なお,DNAの調製にあたり,除蛋白や濃縮操作をとり入れることにより検出感度が改善された。 2) ピロリ菌を液体培地で培養すると,増殖の静止期に入るにつれてラセン状細胞から球状体への変化が観察される。この球状体は代謝活性が低く,外界の生活環境でもある程度生存可能な休眠型の細胞と考えれているが,これまでに行われた実験では,新しい培地に移し変えても,もはや球状体は発育しない。本研究では,ケモスタット培養装置を用いて,増殖速度と細胞形態の球状化との関係を検討した。その結果,0.04h-1(倍加時間で,17.3時間)という比較的遅い増殖速度(すなわち,栄養成分の供給速度が低い条件)においても,菌体の球状化が起こらないことがわかった。現在,さらに,より低い増殖速度の効果や環境のpHや溶存酸素濃度の効果を検討している。
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