研究概要 |
味蕾の細胞生物学的特性を明らかにするため,両生類(カエル)や哺乳動物(ウサギ,ラット)を用いて,まず発生学的に検索した.その結果,カエルでは味蕾の発生に先立ってメルケル細胞が上皮内に出現し,この細胞を標的にして神経が伸長して上皮内に侵入した後味蕾の形成が始まることを初めて明らかにし,メルケル細胞の味蕾前駆細胞としての役割を示唆した.特にメルケル細胞がもつセロトニンが味蕾の発生や形態維持に重要な役割をもつことが示唆された.次にウサギやラットを用いて味蕾を発生学的に検索したところ,カエルの場合と同様に,神経が上皮内に侵入するのに先立って,メルケル細胞に類似した特徴を持つ細胞が出現するのが観察された.このような結果は,味蕾の発生は神経が上皮内に侵入した後味蕾前駆細胞が分化するといった今までの概念とは異なる新しい所見であった.このような結果は神経切断後の味蕾の再生の場合にも観察された.また今回の味蕾の発生学的研究は,味蕾細胞の多元説を強く支持するものであることを明らかにするとともに,一部の味蕾細胞(II型)は発生学的にシュワン細胞に由来することを示唆する所見も得られた.さらにDrosophila achaete-scute proneural gene complexの哺乳動物のホモログとして知られる遺伝子Mash1がラットの味蕾に発現することや,この遺伝子の発現が味神経の神経支配に依存することを明らかにした.
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