研究概要 |
若年性歯周炎原因菌のActinobacillus actinomycetemcomitansは通性嫌気性菌で,酸素のある環境においても生育可能である。本研究では酸素を利用するエネルギー産生系の役割を分子生物学的に解明することを目標とするが,まず果糖を炭素源として培地に添加したところNADH-酸素酸化還元酵素活性が誘導されたので,そのうち電子伝達反応の初発酵素であるNADH脱水素酵素の精製を行った。本菌ATCC29522株を果糖添加培地で培養し対数増殖期で集菌後超音波膜小胞を調製し,これよりNADH脱水素酵素をNADH-ユビキノン-1(Q1)酸化還元酵素活性を指標として精製した。まず膜小胞からの可溶化は0.5%sucrose monolaurate(界面活性剤)で行い,以降同界面活性剤存在下精製を進めた。DEAE-Sephacelカラムで分離した後DEAE-Sephacelに再クロマトグラフィを行い,HiTrapBlueカラム,最後にTSK-GEL G3000SWXLカラム(HPLC)によって完全精製した。SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動より求めた単量体の分子量は47Kであり,ゲルろ過より求めた未変性酵素の分子量は140Kであった。このことより本酵素はnativeな状態では3量体で存在していることが示唆された。精製した脱水素酵素には非ヘム鉄の存在は認められず,またキノン類も含まれていなかった。本酵素は電子受容体としてQ1,メナジオン,2,6-dichloroindophenol,フェリシアン化カリウム,チトクロムcを,また電子供与体としてはNADHを利用することができた。NADPHは電子供与体とはならなかった。ミトコンドリアのcomplex Iの特異的な阻害剤であるロテノンやHQNO,カプサイシンによっては阻害されなかった。これらの性質より本菌に含まれるNADH脱水素酵素はミトコンドリアタイプのNDH-1にではなく,バクテリアタイプのNDH-2に含まれることが明らかとなった。現在本酵素のアミノ酸の一次配列を決定中であるが,今後その情報をもとに本酵素の遺伝子のクローニングを計画している。
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