研究概要 |
虫歯の形成は、唾液細菌のStreptococcus sobrinusが口内でショ糖を基質として産出する粘着性の高いα-Glucan(プラークを形成)が歯の表面のエナメル質に吸着し,その中でショ糖などの分解により生成する乳酸が,エナメル質を構成しているハイドロオキシアパタイト(HAP)を溶解して,いわゆる脱灰が起こることによるとされている.本研究では,虫歯成因を物理化学的手法によって多面的に解析をおこなうため,大きく分けて,次の3つのテーマについて研究をおこなった. 1.X線回析と計算化学を用いてα-Glucan分子の立体配座の解析を行った結果,主鎖のα-1,3-Glucan分子鎖はよく延びた2回らせん(ジグザグ)構造を採っていることが明らかとなった。また,主鎖に1,6-結合して歯のエナメル質に粘着する要因と考えられている側鎖α-Glucoseが採りうるいくつかの立体配座が得られた. 2.α-Glucanと,歯の表面に近い疑似六方晶系の結晶構造を持つHAPとの相互作用について,赤外吸収,蛍光,円偏光二色性スペクトルを用いて,純化学的手法で検討した結果,プラークと歯の表面との間には水素結合のような強い相互作用は存在しないと考えられた. 3.虫歯形成の直接の原因が乳酸によるHAPの溶解にあることから,その溶解性に対するキチン誘導体など虫歯予防剤の添加効果を検討したところ,カルボキシメチルキチンとエチレングリコールキチンが阻害作用を示すことがわかった.
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