研究概要 |
我々は、Porphyromonas gingivalis(P.gingivalis)の培養上清が、ヒトT細胞の表面抗原に与える影響について、検討を行った。その結果、培養上清で前処理された細胞は、CD4の発現が0%となりCD8,CD2も有意に減少していた。また、培養上清を還元剤で活性化すると、CD4,CD8,CD2に加えてCD11a,CD18,TCR-γδも有為に減少していた。さらに、この培養上清の活性は、システインプロテアーゼ阻害剤によってほとんど消失することがわかった。このことからP.gingivalisはT細胞の表面抗原を切断するシステインプロテアーゼを産生し、このタンパク分解酵素がT細胞の活性化や免疫機能を障害することで、歯周病の病因に関与している可能性が示唆された。 さらに、P.gingivalisと同様の酵素を有しているBacteroides forsythus(B.forsythus)のヒト多形核白血球(PMNs)への影響を調べ、P.gingivalisと比較しその効果と作用機序について検討した。その結果、リン酸緩衝生理的食塩水(PBS)で処理した場合と比較して、B.forsythus超音波破砕抽出物(B.forsythus S.E)で処理されたPMNsは、LFA-1分子、CR3及び殺菌能の有意な増加が、FcR,H_2O_2産生能に有意な減少が認められ、CR1に関しては有意差が認められなかった。一方、P.gingivalisは、B.forsythusと同等の酵素活性濃度に希釈したものを用いて同様の実験を行ったところ、FcR,LFA-1分子,CR1,H_2O_2産生能及び殺菌能においてB.forsythusの実験とは異なる結果を示した。 以上よりP.gingivalisは有するタンパク質分解酵素により細胞表面の抗原を破壊し、細胞機能を抑制させる可能性が示唆されたが、B.forsythusはP.gingivalisと類似した酵素活性を持つが、PMNsの細胞接着に関与するLFA-1分子や殺菌能に関して異なった影響があったことから、P.gingivalisとは異なった作用機序が考えられる。
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