研究概要 |
末梢血中の好中球と、歯肉固有層の毛細血管より遊走し、歯肉溝を経て口腔内に移行する唾液中の好中球を対象として、周囲の環境とアポトーシスの発現との関係を検索した。 健常者の末梢血および唾液から好中球を分離し、PBS、唾液、PMA、腫瘍壊死因子(TNF-α)、Fas抗体(アポトーシス関連抗体)を好中球にそれぞれ加え,0時間から6時間インキュベートした。そしてその前後のFas抗原およびLewisY(Le^y)抗原の発現を、間接蛍光抗体法を用い、Flow Cytometryで検索した(平成8年度より継続)。さらに,各細胞群のアポトーシスの発現状態を透過型電子顕微鏡により形態学的に観察するとともに,各群の細胞よりDNAを抽出し,その断片化の状態をアガロースゲル電気泳動法により生化学的に検索した。 そして以下の結果が得られた。 1.フローサイトメトリーによる検索:(1)末梢血中の好中球では、唾液、TNF-α、Fas抗体の刺激により、Fas抗原およびLe^y抗原の発現が経時的に増加した。(2)唾液中の好中球では、Fas抗原の発現は末梢血よりわずかに増加し、Le^y抗原の発現は有意に高い値を示した。そしてこの傾向は、PBSおよび血清でのインキュベート後もほとんど変化しなかった。 2.透過型電子顕微鏡による検索:(1)末梢血中の好中球では、唾液、TNF-α、Fas抗体による6時間の刺激で、アポトーシス細胞に類似した細胞が観察された。(2)唾液中の好中球にアポトーシス細胞の特徴を備えた細胞が多く観察された。 3.アガロースゲル電気泳動法による検索:(1)末梢血中の好中球をTNF-αで3時間インキュベートすると,アポトーシス細胞の特徴であるDNAラダーが観察された。(2)唾液中の好中球にDNAラダーが観察された。 以上のことより、好中球が末梢血より口腔内の唾液中に移行する過程で、唾液やサイトカインなどの影響を受け,壊死するのではなくアポトーシスを発現し,口腔内の恒常性の維持に関与している可能性が示唆された。
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