研究概要 |
失われた歯冠形態および損なわれた機能を歯冠補綴物によって回復し,その状態を長く維持していくためには,補綴物が歯周組織をはじめとする顎口腔系全体と機能的に調和していなければならない.ことに,補綴物の咬合面形態をどのように回復させるかは重要な問題であり,クラウンに与える咬合接触の強さおよび咬合接触部位が正常な歯に対しどのような影響を与えるかを十分に把握しておくことは補綴学の臨床において不可欠である.歯は機能時に咬合力を受けて歯根膜が持つ粘弾性体としての性質に由来する変位を示す.この機構は咬合力が顎骨へ直接伝播するのを緩衝するとともに,歯自体が受ける力をも緩衝している.従って,歯,歯周,歯組織を含む顎口腔系の動態を維持していく上で歯の変位は重要な意味を持つ. 本研究では,顎口腔系全体との調和との観点からクラウンにどのような咬合面形態を与えれば良いかを検討する目的で,まずその第一段階として,3次元微小変位計を用いて噛みしめ強度を変化させたときの健常者の歯の変位経路を測定するとともに,ブラックシリコーンを用いて咬合力による咬合接触点の位置の変化を記録し検討を加えた. その結果,機能時に上顎臼歯は歯槽骨の中へ押し込まれて,口蓋側歯根方向に100〜150μmの変位を,下顎臼歯は舌側方向へ50μm前後の変位を示した.噛みしめ強度が増加するにつれ,上顎臼歯は歯根方向あるいは口蓋側歯根方向へ,下顎臼歯は舌側方向へより変位し,上下顎間で変位量および変位方向を異にすることから上下顎臼歯の咬合接触点の相対的位置関係は,噛みしめ強度が増加するにつれて変化していくことが認められた。
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