研究概要 |
金属アレルギーの判定は皮膚パッチテストから陽性金属を推定した後,口腔内修復物から削片を微量採取してX線元素分析法で成分を確認し,アレルギー陽性金属と照合して撤去の必要性を判定していたため検査に長時間を要し費用もかさんでいた.そこでX線元素分析法に代わる簡便な分析法の確立を目的に,金属イオン溶出量を直接検出する方法を検討するため以下の実験を行った.実験1:イオン濃度測定の最適条件の決定.測定装置として分光光度計.光電光度計.比色法測定パックテストの3方法をCrイオンとNiイオンを対象として操作性と精度を検討した.また口腔内から試料を採取する前提で修復物からイオンが最も溶出しやすい機能的条件を検討した.その結果,分光光度計と水質測定試薬の組み合わせにより.咬合条件としてグラインディングを行うのが最適と判明した.実験2:簡便な分析法の臨床での有用性の検討.被験者は金属アレルギーの既往がなく天然歯列を有する6名とした.Ni-Cr合金とCo-Cr合金製の可撤性メタルスプリントを装着し,溶出する金属イオンを検出するため機能的条件として5分間のグラインディング後に試料を採取した.測定回数は被検者1人につき3回計18回とし,唾液と含嗽水を合わせて1試料につき25ml採取した.これを基に分光光度計と水質測定プログラムパックの組合せで,CrイオンとNiイオンについて濃度測定を行った.結果はNi-Cr合金からのCrイオン溶出量は最小値0.06.最大値0.293,平均値0.139,標準偏差0.060(mg/l)であった.Niイオンは最小値0.496,最大値1.094,平均値0.654,標準偏差0.168(mg/l)であった.さらにCo-Cr合金からのCrイオン溶出量は最小値0.022,最大値0.141,平均値0.084,標準偏差0.042(mg/l)であった.以上の結果からグラインディングを機能的条件として,全顎的な補綴物であればCrイオンとNiイオンは検出限界に近いながらも分析が可能であることが判明した.
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