研究概要 |
義歯治療を必要とする患者は高齢者が多く,加齢に伴い神経伝導速度,基礎代謝など一様に低下し,自律神経系への影響は大きく病気への抵抗力が減弱し,精神機能においても知能の低下や不安,焦燥感,抑鬱感の増加がいわれている.これら心身の衰えは歯の喪失および口腔機能の低下により促進するとされるが不明な点が多い.そこで本研究は高齢義歯装着者の義歯の状態が,精神および自律神経機能に及ぼす影響を検討することを目的とした. 初年度は義歯に満足の得られている当科リコール患者30名(67.9±6.31歳)および顕著な全身的疾患を有さず義歯治療を必要とする旧義歯患者48名(65.8±9.23歳)を対象とし,義歯機能アンケートを用いた義歯に対する主観的満足度,心理テスト(CMI,Y-G,MAS,MD)による精神心理特性および自律神経症状調査表による自律神経失調症状の評価を行った.次年度には旧義歯患者の義歯治療終了後の評価を加え検討した.さらに客観的自律神経機能検査として心電図R-R間隔変動(CV_<R-R>)を旧および新義歯装着時の安静時とクレンチング後に評価した. その結果, 1. 満足度の向上は,神経症傾向,不安,怒り,抑うつ尺度の減少を示し,情緒安定性,外向性を示した. 2. 精神心理特性に及ぼす満足度の影響は年齢および性別により異なり,男性では高齢者ほど抑うつ傾向に強く影響し,女性では高齢者ほど抑うつ,不安,その他精神状態の不安定さに強く影響した. 3. さらに自律神経症状愁訴の減少を認めたが,心電図R-R間隔変動による自律神経機能には新旧義歯装着時に有意差を認めなかった. 以上より,義歯の良否は精神心理的側面および自律神経症状愁訴に影響を与え,その影響は女性および高齢者ほど表れやすいことが示唆された.また,自律神経機能検査については検査項目を追加し今後さらに詳細に検討を加えたい.
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