研究概要 |
本研究では客観的に口唇機能を評価し,矯正治療,あるいは外科矯正治療前後の舌,口唇等の口腔周囲軟組織,および咀嚼筋の活動の相互関係を検討し,形態の改善がどのような機能の変化をもたらすのかを明かにした。 〈被験者〉 無力性口唇を有する上顎前突と骨格性開咬,および骨格性反対咬合者と,無力性口唇を有さない骨格性反対咬合者を選択し,治療開始時,動的治療完了時,保定時,保定後1年に口唇と咀嚼筋の筋活動を評価した。 〈方法〉 眼耳平面と床を平行にしデンタルチェア-に座った被験者で,上口唇については左右対称に,下口唇については下唇下制筋とオトガイ筋の走行に平行に,さらに左咬筋前腹と側頭筋にそれぞれ一対の表面電極を2.0cmの間隔で貼付し,口唇を閉鎖,および離開した安静時と口唇を閉鎖および離開してクレンチングした時の口輪筋,下口唇,側頭筋,および咬筋の筋活動をそれぞれ15秒間記録した。計測した電気信号は筋電図用アンプで増幅し,AD変換後(AD Instruments社,MacLab/8) 400Hzでサンプリングしマイクロコンピュータ(マッキントッシュ・パワーブック5300CS)に記録し,解析用ソフト(MacLab/8S)によって最大筋活動値,および筋活動積分値を算出した。 〈結果〉 無力性口唇は,上顎前突者では下顎骨の成長とoverjetの減少に伴って改善する傾向が見られたが,完全な治癒は見られなかった。骨性正反対咬合者では外科的矯正治療を行ったが,無力性口唇は改善されなかった.骨格性開咬では無力性口唇はすべて改善されていた。一方,初診時に無力性口唇を有する不正咬合者では,クレンチング時に口唇の活動が減少したが,無力性口唇の改善と共に増加する傾向にあった。以上より,無力性口唇は歯列咬合,および顎顔面の形態異常の改善によっても回復しないものがあることがわかった。また,無力性口唇と咀嚼筋の活動に深い関係があることがわかった。さらに,形態の改善によっても回復しない無力性口唇について筋訓練の必要性が示唆された。
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