研究概要 |
矯正臨床では,下顎位を積極的に変化させる場合があるが,下顎位の変化が,全身に影響を及ぼすのかについて,明確な見解は得られていない. そこで本研究では,特に下顎安静時,下顎咬合時と,随意性努力で噛みしめを行った場合について,体調節機構,特に平衡調節に影響を与えるか否かについて重心動揺を測定し,検討した結果,以下の結論を得た. 1.閉眼時における下顎安静時と100%噛みしめ時と比較して,下顎咬合時,10%噛みしめ時,50%噛みしめ時の方が,重心の移動距離および移動速度が比較的小さくなる傾向が認められた. 2.重心移動から求められた各種面積に関しては,1名を除いて下顎咬合時,10%噛みしめ時,50%噛みしめ時のいずれかが小さな値を示す傾向がうかがわれた. 3.重心は,全体的に後方へ偏位する傾向が認められた. 4.下顎の安静時と咬合時とにおけるわずかな顎位の変化量では,重心動揺の各測定値には,有意な差が認められなかった. 5.噛みしめ行動から,これに関与する顎口腔諸筋,歯根膜そして顎関節部への刺激が,身体,特に体性調節機構に影響し,平衡機能である重心動揺に変化がみられたものと思われる.
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