研究概要 |
ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の逆転写酵素(RT)に対して特異的なアロステリック阻害剤として働くHEPTは、ヌクレオシドのリチウム化反応に関する著者らの研究の過程で見い出された非ヌクレオシド系抗HIV-1化合物である。HEPTをリ-ド化合物とする広範な誘導体の合成研究の結果、MKC-442がエイズ治療のための候補化合物として選択され、感染者を対象とするドイツにおける第一相臨床試験を終えて現在、アメリカ合衆国での臨床試験に入っている段階である。 MKC-442耐性HIV-1ではRTにTyr181Cys,Lys103Arg,Va1108I1eの変異が起こっている。Tyr181Cysの変異に対応すべく、MKC-442の6位にシクロヘキシルチオ基を有する化合物および5位にチオエチル基を導入した化合物をリチウム化反応によって合成した。本研究の結果既に、前者はMKC-442耐性HIV-1にも活性を示すことが明かとなり今後の展開が期待される。後者の化合物に関しても現在耐性ウイルスに対する増殖阻止活性をしらべている。15EA03:また本研究の研究段階では予定されていなかったが、RTとの親和性をより高める目的でMKC-442のN1位側鎖の修飾についても検討した。MKC-442とRTとの複合体のX線結晶解析の結果を基に、アロステリック部位に存在するLys103と水素結合するように、末端にカルバモイル基を持つアルキル鎖をMKC-442のN1位に導入した。しかしながら、実際に合成した一連の化合物はいずれもMKC-442よりも低い抗HIV-1活性をしめした。今後RTとの複合体を調整しX線結晶解析によってこの原因を究明する計画である。
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