研究概要 |
エポキシドは有機合成化学上きわめて重要な親電子剤の一つであり,その大きな環ひずみのために付加反応,酸触媒転位反応,異性化反応など多彩な反応性を示す.これに対して,エポキシドそのものを求核試薬として用いる反応は,従来のエポキシドの反応とは逆の発想に基づくものであり,これまでほとんど研究されていなかった.求核試薬としてのエポキシドのアニオン,すなわちオキシラニルを用いれば新しい置換エポキシドの直接的な合成が可能となるばかりか基質への二重結合の導入やエポキシ化を行う必要がなくなり,反応工程数の短縮にもつながるので,有機合成特に天然物合成において有力な手法になると考えられる.このような観点に立って本研究課題の研究を実施し,以下に述べる研究成果を達成した. 1.オキシラニルアニオンのアルキル化 極めて不安定と考えられているオキシラニルアニオンのアルキル化を実現するためにエポキシドにスルホニル基が直接結合したエポキシスルホンを合成し,これをテトラヒドロフラン中-100℃でブチルリチウムを作用させると瞬時にオキシラニルアニオンが発生し,これにハロゲン化アルキルを反応させると中程度の収率でアルキル化生成物が得られた.種々反応条件を検討した結果,ハロゲン化アルキルの代わりにアルキルトリフラートを用いることおよびエポキシスルホンとアルキルトリフラートの混合物を直接ブチルリチウムで処理することにより反応収率を90%前後まで向上させることに成功した. 2.テトラヒドロピランの合成 アルキルトリフラートの3位に水酸基をもつ化合物を合成し,これとスルホニル基置換エポキシドを反応させて得られる生成物を,酸性条件で処理すると水酸基がエポキシドに対して付加反応し,6-エンド閉環生成物であるテトラヒドロピラン化合物が得られることが判明し,新しいテトラヒドロピラン合成法を確立することができた.
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