本研究の研究代表者である大島が1994年に完成させた「柔らかい粒子」(滑らかな表面をもつ剛体粒子と異なり、細胞のように表面に高分子電解質の層をもつ粒子)の電気泳動理論は、現在、内外の多くの研究グループによって、細胞やそのモデル系の電気泳動移動度の解析に応用されている。平成8年度における本研究の成果は次の2点である。まず、第1点は、ガン細胞が多くの場合、遊離した粒子の形状をとるのではなく、平面状の組織中にあることに注目し、「柔らかい平面」上の電気浸透流速に関する理論を完成させ、実際に、牧野等により、実際のガン組織表面の測定・解析に応用したことである。第2点は、これまで「柔らかい粒子」の電気泳動理論を細胞の電気泳動に応用する際に、細胞分散媒のイオン強度を広範囲にわたって変化させなければならなかった点に関係している。このため、細胞を過酷な条件下に置かざるを得ない。そこで、われわれは、従来の静的な理論にかわり、振動電場中の電気泳動に関する動的な電気泳動理論を完成させた。この理論を適用すれば、イオン強度のかわりに、外部電場の振動数を変化させ、移動度の振動数依存を解析することにより、粒子の表面に関する情報を得ることができる。この理論は剛体粒子に関するものであるが、現在、「柔らかい粒子」を対象にした理論を完成させつつある。
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