研究概要 |
我々は、空胞系酸性顆粒が細胞の増殖と分化に対して如何なる寄与をしているかについて,選択的阻害剤を利用して検討してきた。本研究においては,特にbafilomycin A1に代表される空胞系プロトンポンプ阻害剤による,細胞増殖阻害機構と細胞分化誘導・アポトーシス誘導機構を明らかにするとともに,bafilomycin A1によるプロトン輸送阻害機構の解明を目指した。 現在までのところ、これら増殖阻害・細胞分化誘導・アポトーシス誘導の各反応は極めて類似しているが、細胞分化にはリソソームのpHは恐らく関与しない点で、増殖阻害とは異なっていることが判明した。今回、アポトーシス誘導における細胞内pHの関与について検討したところ、細胞質pH・リソソーム内pHとともに、bafilomycin A1によるアポトーシス誘導に直接関係しないことが判明した。すなわち、同じようにリソソームのpHを上昇させ細胞増殖を阻害する塩化アンモニウムでは、細胞分化・アポトーシスとともに誘導されず、また、細胞質pHを変動させてもbafilomycin A1による細胞死は影響を受けなかった。最近、我々は、空胞系プロトンポンプを脱共役する阻害剤として新たにプロジギオシンprodigiosinsを見い出している。本化合物も細胞の増殖阻害・細胞分化・アポトーシスを誘導することを見い出した。これらの薬剤の効果を比較検討することにより、V-ATPase阻害と分化・アポトーシス誘導機構の解明を図りたい。なお、空胞系プロトンポンプ阻害剤が,果してH^+-ATPase阻害を通じて分化を誘導するのか否かは,極めて重要で且つ興味深い点である。これを明らかにする一環として,アフィニティーカラムや新たなアフィニティー標識プローブを作製して阻害剤結合部位の同定を試みているところである。 なお、V-ATPaseにおけるプロトン輸送機構の解明には、精製酵素標品を大量に必要とするが、それは真核細胞のV-ATPaseでは極めて困難である。そこで、今回、高度好熱菌のV-ATPaseを検討したところ、同様にbafilomycin A1で阻害されることが分かった。今後、高度好熱菌を用いてV-ATPaseにおけるプロトン輸送機構の解明を生化学的に検討する予定である。
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