研究概要 |
報告者は血管内皮細胞における構成型NO合成酵素の活性化に必要な細胞外Ca流入のメカニズムにチロシン・キナーゼが関与すること,並びに同キナーゼが血管平滑筋細胞においてエンドトキシンによる誘導型NO合成酵素の発現に関与するチロシン・キナーゼとは相異なるアイソザイムであることを世界で初めて見いだした。血管系における2つのNO産生系がそれぞれ相異なるチロシン・キナーゼを情報伝達分子として利用していることは,学問的興味のみならず創薬のターゲットを考える上でも極めて興味深く,またこの事実は報告者が最初に見いだしたものであるので他の研究者よりも一歩進んだ位置にあると考える。したがって現在は内皮におけるCa流入機序と誘導型NO合成酵素の発現機序を主としてチロシン・キナーゼを含むキナーゼ系の観点から平行して検討を進めている。 内皮細胞を用いた実験において血管切片を用いた内皮依存性弛緩反応及び共焦点レーザー顕微鏡を用いた培養内皮細胞内Caイメージングのリアルタイム解析を行なった。現在,内皮細胞内へのCa流入はいわゆる容量性Ca流入仮説で説明され,これによれば刺激の種類によらず小胞体内Caの枯渇がCa流入の引き金になるとされ,小胞体内からCa流入の連関機序としてCa流入因子という未同定の物質の存在が想定されている。しかしチロシンキナーゼ阻害薬は小胞体Ca-ATPase阻害薬による弛緩反応を抑制するが,ATP受容体を介して弛緩には影響しないことを見いだした。実際細胞内Ca動態を測定するとCa-ATPase阻害薬によって細胞内のCaは一様に上昇するが,ATPを適用した場合は細胞のある一点より細胞内Caは立ち上がり,その後遠心方向あるいは波状に周辺へ波及することを明らかにした。これらの現象は必ずしも小胞体内Caの枯渇が一義的に細胞内Ca濃度上昇の原因になってはいないことを示唆しており,従来の説に疑問を投げかけるものであると考える。一方、インターロイキン1による誘導型NO合成酵素の発現にはチロシン・キナーゼに加えnovel typeのプロティン・キナーゼCを介した誘導型NO合成酸素遺伝子の発現と,これとは独立した系を介する誘導型NO合成酵素のmRNA分解抑制経路が存在することを明らかにした。
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