研究概要 |
本研究課題に関連して2つの研究を実施した.第1に,中枢ニューロン,特に延髄孤束核ニューロンにおける,麻薬性および非麻薬性鎮咳薬のグリシン誘発電流抑制作用が同じ機序(あるいは同じ作用部位)によるのか否かについて、薬理学的観点からパッチクランプ法を用いて検討した.第2に,咳反射の中枢内伝達機序にグリシンが関与しているのか否かについての基礎知見を得るために,独自に考案した浮遊式のin vivoマイクロダイアリシス法を用いて検討した.その結果,以下の成績および結論を得た.(1)モルヒネ(Mo)およびコデイン(Co)は,1〜1000μmの濃度で濃度依存的にグリシン誘発電流(L_<gly>)を抑制した.両薬物の作用強度はデキストロメトルファン(DM)の薬1/6であった.(2)MoおよびCoのI_<gly>抑制作用は,オピオイド受容体,σ受容体,や5-HT_1,5-HT_2および5-HT_3受容体のそれぞれのブロッカーによって影響を受けなかった.(3)Mo30μmはDMと同様にI_<gly>の濃度-反応曲線の最大反応を抑制せず,この曲線を右側に移動させた.(4)MoおよびCoのI_<gly>抑制作用にuse-dependencyは認められなかった.(5)気管分岐部への5%クエン酸液噴霧による咳の発現時間帯に,延髄孤束咳から採集したサンプルにおいて,グリシンレベルは刺激前のレベルの171.1【plus-minus】20.5%(basalレベルは76.2【plus-minus】4.9pmol/10μl)となり,この増加は対照群に比べて有為であった.他のアミノ酸レベルは変動しなかった.(6)グリシン増加例のプローブ先端の位置は,閂から吻側へ600〜1000μm,正中から外側へ400〜1000μm,深さ600〜1000μmの位置にあった.(7)孤束咳のグリシンレベルは,高K^+刺激により有意に増加し,この増加はCa^<2+>依存性であった.以上の成績から,MoとCoは,DMと同様にグリシン受容体に作用していること,また,延髄孤束核において,グリシンは,咳反射の中枢内機序の一部に関与している可能性のあること,が示唆された.
|