研究概要 |
多細胞生物の細胞分化や器官形成には複雑に関わりあう遺伝子の発現を制御する転写制御因子が重要な役割を果たす。最近、私は気管に選択的に発現するLysozyme遺伝子のプロモーター領域の解析を行なった。その結果、転写開始位置から50塩基上流にあるAGGAAGTの配列がlysozymeを上皮細胞に特異的に発現させるために必須であるがわかった(J.Cell.Biochem.,1996)。このAGGAAGTの配列はETS DNA結合ドメインをもつ蛋白によって認識される。その後、種々の観点から検討した結果、ETS DNA結合ドメインをもつ新しい転写制御因子(プロトオンコジーン)が気管上皮細胞に存在する可能性が示された。ゆえに本研究目的は新規転写制御因子のcDNAクローニングとその性質を明らかにすることであった。 現在、既に、気管上皮細胞からある方法でターゲットとする遺伝子の断片(170bp)のクローニングに成功した。その遺伝子配列の情報から、新規のETS関連蛋白である(ELF-1に類似したETS DNA結合ドメインを持つ)ことがわかった(TEP-1)。また、Northern Blotting Analysisの結果からmRNAのサイズは4kbであること、上皮細胞だけでなく殆どの癌細胞に発現していること、さらに、種間の遺伝子の相同性は95%であることが分かってきた。この遺伝子の発現調節に細胞外マトリックスが関与していることがわかってきた。このような特徴を持つETS関連蛋白は過去に例はなく新しい転写制御因子として十分注目に値する。最近、この研究の過程でヒト癌細胞を用いた3'-raceにより約1kbの新たなETS関連遺伝子の断片を得た(TEP-2)。この遺伝子は最近報告された(oncogene,1996)MEF-1と高い相同性を示し、hamsterホモローグであることが予想された。
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