研究概要 |
リン酸エステル結合を解裂する触媒の開発は,DNAやRNAの切断(遺伝子制御,抗癌・抗ウイルス剤),リン酸化により不活化された酵素の再活性化,有機リン剤(神経ガス)の解毒などと関連して,現在最も興味深い研究テーマの一つとなっている。本研究ではアルカリフォスファターゼの活性中心のモデルとして新規大環状オクタアミン複核亜鉛錯体や脂溶性単核亜鉛錯体を用いて,通常極めて安定なリン酸モノエステルを,亜鉛酵素類似の反応機構で触媒的に加水分解する人工フォスファモノエステラーゼの開発研究を行った。 オリジナルに合成した大環状亜鉛錯体のフォスフォモノエステラーゼ様機能を詳しく調べ,そこから得られる化学的事実をもとに,ダイマー構造やトリマ-構造あるいは脂溶性側鎖を持つ新しい大環状ポリアミン亜鉛錯体(人工フォスフォモノエステラーゼ)を新しく合成した。それら人工フォスフォターゼの結晶および溶液内構造を,X線結晶解析法,pH滴定法,NMR測定などにより詳しく調べた。それらの水溶液中での安定性,フォスフォモノエステラーゼ活性や基質であるリン酸エステルとの相互作用を様々な化学的手法を用い検討した。脂溶性側鎖を持つ大環状ポリアミン亜鉛錯体と混合ミセル系を用いたリン酸エステル加水分解反応では,脂溶性側鎖を持たないものに比べ数千倍の活性を持つことを見い出した。リン酸タンパク質類似の低分子リン酸化化合物の脱リン酸化活性を指針として,リン酸モノエステルジアニオンを選択的に分解する新規二核亜鉛錯体の開発にも成功した。本研究成果は,今後,生理条件下で機能する実用的な低分子人工フォスフォモノエステラーゼの開発研究へとさらに発展させていく予定である。
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