研究概要 |
風疹感染症は罹患者の感染よりも妊婦を通じた胎児への垂直感染による先天性風疹症候群(CRS)が流行期に発症率が上昇し、保健・福祉の両面にわたって公衆衛生上の重要問題となっている。わが国においては風疹予防接種は中学2年生女子を対象として予防接種の法制化が昭和52年になされ、その後国際的方向に従って、ムンプス・麻疹・風疹のMMRワクチンの導入がはかられたが無菌性髄膜炎の副作用を多数経験するにいたり、実質中止に至った。本研究はこの17年間の予防接種施策の変遷と低年齢予防接種の一時実施が与えるわが国の風疹流行とCRS発症確率を地域集団免疫を考慮してコンピュータシミュレーション手法を導入し、医療経済学的な検討をはかったものである。 筆者はすでに、MMR接種が当該状況下で低い実施率でしか維持されないことを想定し、MMR接種が現行麻疹接種率と同率で実施した場合、中学2年生接種法と比較して風疹予防上の費用効果比がほぼ1/2であることを算出し、またMMR接種率の修正によるsensitivity analysisでも将来予測上のCRSの有意な増加が示されないことを明らかにした。今年度の研究においては施策転換がもたらす長期的な費用効果におけるCRS抑制効果を含めた検討を行った。医療費算定のための資料にもとづいて心臓異常を主とした医療費を算定を行うと、1,200〜1,800万の費用と推測され、現行予防接種方式を完全に実施した地域モデルにおいては、これにMMR接種を導入しても、ほとんど効果があがらないことが示唆された。SIR流行モデルにパーコレーションモデルを組み込んでAckermanらの手法を導入して検討をはかったが、結果に有意な差はみとめられなかった。本研究において小児周期感染症の非線形流行挙動のさらなる解明が重要と思われる。
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