研究概要 |
すでに私たちは、胃酸分泌および血漿カテコールアミン値を指標に、脳内プロスタクランジン(PG)系が中枢性に交感神経系を賦活することを報告している(J.Pharmacol.Exp.Ther.,1988;Br.J.Pharmacol.,1995,1996)。さらに胃酸分泌を指標に、サイトカインの一つであるインターロイキン1β(IL-1β)が脳内PG系を介して交感神経系を賦活することも報告した(Eur.j.Pharmacol.,1995)。近年、IL-1βは炎症との関連で一酸化窒素(NO)-PG系に関与することが数多く報告されている。そこで今回私たちは、このIL-1β-NO-PG系が中枢性交感神経賦活機構にも関与するか否かを、胃酸分泌および血液カテコールアミン値を指標に検討した。 [研究方法]ウレタン麻酔したラットを用い、脳室内に投与したIL-1βおよびNO供与体[Sodium nitroprusside(SNP),3-Morpholinosydnonimine(SIN-1)]の血漿カテコールアミン値および迷走神経性胃酸分泌に及ぼす影響を検討した。迷走神経性胃酸分泌は胃レベルにおいて胃交感神経系の賦活によりアドレナリンα受容体を介して抑制される。血漿中のカテコールアミンは、アルミナ抽出したのち高速液体クロマトグラフィーを用いて電気化学検出に測定した。[実験成績](1)IL-1βは血漿ノルアドレナリン(NA)値のみを選択的に上昇させた。この作用はNO合成酵素阻害薬(1-NAME)およびNO消去薬(オキシヘモグロビン)の脳室内投与,シクロオキシゲナーゼ阻害薬インドメタシンの脳室内前処置により消失した。(2)脳室内に投与したSNPおよびSIN-1は迷走神経の電気刺激により増加した胃酸分泌を抑制し、この抑制作用はインドメタシンの脳室内前処置、内臓神経切除術、およびアドレナリンα受容体遮断薬フェントラミンの筋肉内投与により消失した。(3)脳室内に投与したSIN-1は血漿アドレナリン(Ad)およびNA値を上昇させた(Ad増加>>NA増加)。このAdおよびNA値増加作用は脳室内に前処置したインドメタシンにより消失し、脳室内に前処置したトロンボキサンA2合成酵素阻害薬フレグレレイトはAd増加を選択的に阻害した。[結論]脳内NO系はアラキドン酸カスケード系を介して交感神経-副腎髄質系を活性化する。IL-1βは脳内NO-PG(E2)系を介して交感神経系を選択的に活性化する。脳内トロンボキサン系は副腎髄質系賦活に選択的に関与することが推測される。
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