研究概要 |
平成8、9年度本研究助成金を基に、本研究では、肝薬物代謝能評価の指標薬物として用いられてきたTrimethadione(TMO)代謝に関与するP450分子種の検索を試みた。その結果、TOMはヒト肝microsomeでは、P450分子種(CYP)のうちCYP2E1で主に代謝されることが明らかとなった。また、ヒトリンパ芽球に発現させた種々CYP分子種を用いた検討および、各種P45O阻害剤、基質等を用いた検討より、その活性はおもにCYP2E1に認められた。更にCYP2E1の代表的な基質として汎用されているクロルゾキサゾン代謝とTMO代謝の相関性に関して検討した結果、相関係数r=0.734の有意な相関が示された。これらの結果より、TMOはヒト肝臓において主にCYP2E1で代謝され、CYP2E1の有用な指標薬物となりうる可能性が示された。さらに、日本人で酵素欠損者が約20%存在する事が示唆されているP450分子種であるCYP2C19欠損者検索を、従来の薬物動態学的パラメータの算出により評価する方法に比べより侵襲の少ない遺伝子型の判定を指標としたRFLP-PCR法により、遺伝子型(wt:野生株,m1:exon 5に変異,m2:exon 4に変異)と表現型(EM,PM)との関連性について被験者50例に関して検討した。Omeprazoleを用いた表現型の判定においてはCYP2C19により生成される代謝物であるomeprazole5位水酸化体生成と未変化体の血清中濃度比を指標に行った。その結果12例がCYP2C19欠損者(PM)である可能性が示された。表現型が明かとなった被験者のうち遺伝子型検索に対する試験の口頭及び文書による説明を行い、同意の得られた28例に対して更に遺伝子型の検索を試みた。その結果、omeprazole5位水酸化能が正常な被験者(EM)は28名中21名で認められた。これら被験者の遺伝型を検討した結果、wt/wtホモ型を示した6例は全てEMの表現型を示し、一方、m1/m1タイプ(exon4:wt/wt,exom5:m1/m1)の5例は全てPMであった。ヘテロ型を示したwt/m1タイプ(exon4:wt/wt,exon5:wt/m1)は11例、wt/m2タイプ(exon4:wt/m2,exon5:wt/wt)は5例およびm1/m2タイプ(exon4:wt/m2,exon5:wt/m1)は1例に認められた。wt/m1タイプでは11例中10例がEMを示したが、1例PMと判定された。wt/m2タイプの5例は全てEMを示し、1例認められたm1/m2タイプの表現型の判定は不可能であった。 本検討を行った事より、遺伝型は特殊な例を除き表現型と良好な関連性を示し、スクリーニング的表現型判定法として極めて有用であることが示された。しかし、ヘテロ型遺伝子を有するごく一部の例において表現型と一致しない結果が示されたことは、遺伝型による判定が未だ確定的な判断基準として不十分である可能性を示しており、また、本検討に用いた変異部分以外の変異を生じている可能性を示唆するものであり、今後更に詳細に検討していく必要があるものと考える。
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