研究概要 |
下垂体後葉ホルモンとしてのバソプレシン(AVP)は良く知られているが,脳のAVPの神経伝達物質としての生理的意義に関しては不明な点が多い.本研究ではラットを用いて,次の点を明らかにすることができた. 1.脳AVP受容体サブタイプの同定とその性質 中枢性循環調節に関連の深い延髄のAVP受容体について,V1/V2受容体にそれぞれ選択性の高い拮抗薬を用いて結合阻害実験を行なった.その結果,延髄のAVP受容体はV1aの性質を示すことが示唆された.さらに,末梢組織のAVP受容体のcDNAの塩基配列をもとに中枢AVP受容体を調べた.その結果,孤束核でV1a受容体mRNAの発現は認められたが,最後野ではV1aおよびV2受容体のいずれのmRNAも検出できなかった.この結果は今後詳細な検討を要するが,中枢におけるV1a受容体は従来の末梢組機のV1a受容体とはその構造が異なる可能性が示唆された. 2.循環機能に関する研究 孤束核や最後野は動脈圧受容器反射に重要な役割を果たしている.正常血圧ラットの動脈圧受容器反射の感受性は,最後野のV1a受容体により抑制的に,V2受容体により亢進的にそれぞれ調節されていた.バソプレシン受容体mRNA発現実験では,正常血圧ラットの最後野でV1aまたはV2いずれのmRNAも検出できなかった.しかし,腎性高血圧モデルラットでは最後野でV2受容体mRNAが,高血圧発症中期の動脈圧反射の感受性亢進の時に発現した. 3.電気生理学的研究 最後野および孤束核を含む延髄のスライス標本を用いて,電気生理学的手法でAVP受容体の性質を検討した.その結果,延髄の最後野神経にV1a受容体の存在が電気生理学的研究からも明らかにされた.さらに,最後野から孤束核への単シナプス神経の入力が存在する事も確認された.
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