研究概要 |
血色素異常症の疑われる患者やその家族構成員について、ヘモグロビン(Hb)を構成するグロビン鎖の量的異常症であるサラセミア(Thal)や質的異常症である異常Hb症の解析をHb分析、グロビン構造解析、Hb生合成試験や分子生物学的手法による遺伝子解析を行ないそれらの血液学的異常との関係を明らかにした。 1. Thal症:無効造血、小球性低色素性赤血球が観察されるほか、標的、大小不同、奇形赤血球の形態異常をもつ遺伝性の疾患で、遺伝子異常に起因する。-31CapA→Gの日本人特有の異常やβIVS2-1G→A,βIVS2-654C→Tのスプライシング異常、β17AAG→TAGの停止コドンの新生やβ42TTTへのTの挿入によるβ43コドンのTGAの停止コドンの新生など新しい型のβ^0-サラセミアを同定した。また、これまでの実績と韓国のThal症との遺伝子比較は高い共通性を示した。α-Thal症では遺伝子欠損型の-α^<37>や--^<SEA>型が多くみられ、両遺伝子を継承したHbH症も見られた。さらに、Thal遺伝子の発現をin vitro実験で行い病態との関連を究明している。 2. 異常Hb症:発見頻度の高いHb Riyach,Hb Hamadan,Hb Ube-2,HbJ-Cape Town等に加え、Hb Swan River,Hb Geel ongや特異な機能異常を伴うHb Zurich,Hb M-Hyde Parkなど、日本人に未発見の異常ヘモグロビン保因者のいることが示された。また、Hb Tanashi,Hb Kurahikiの新種の異常Hbのほか、Hb Tor anomonは不安定性や機能異常を伴い検出困難なサイレント型のHbで、臨床的にも注目されるものであった。 3. 新しいHb検出法:異常Hbの検出には等電点電気泳動が有力な手段である。しかし、従来の方法は、ゲルの保存性、pHの安定性、分析の再現性に問題があった。今回アガロースゲルを支持体とした調製ゲル等電点電気泳動は非常によいHb分析結果を得、さらに、タンパク質分析化学に十分応用されるものと考えられた。
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