研究概要 |
身体抑制によって生じる老人患者のストレスを推測する目的で、健康な高齢者を被験者として、身体抑制時と非抑制時の脳波を測定した。心身共に健康な男性10名、女性17名から被験者となる協力が得られたが、このうち女性1名については都合により非抑制時の測定ができなかったので分析対象から除外した。したがって分析対象者は男性10名(63〜79歳、平均71.0歳)、女性16名(58〜74歳、平均66.9歳)である。実験は、各被験者について身体抑制をする日としない日を無作為に割り付け、それぞれ安静仰臥位2時間の脳波記録を行った。抑制は体幹の動きは可能な程度に、両肘と両膝を抑制帯にてベッドに固定した。脳波導出は耳朶に基準電極をおき、頭頂部(C_3-A_1,C_4-A_2)と後頭部(O_1-A_1,O_2-A_2)から導出した。分析にはC_3-A_1とO_1-A_1の脳波記録を用い、記録不良の場合のみ他側の記録を使用した。A/D変換したデータに高速フーリエ変換(FFT)を行い周波数パワースペクトルを計算し、測定開始時から30分間ずつに区切って、周波数帯区別パワー値の出現百分率を求めた。周波数帯域の域別は、δ波(0.5〜3Hz)、θ波(4〜7Hz)、α波(8〜13Hz)、中間速波(14〜17Hz)、β波(18〜30Hz)、γ波(30Hz以上)とした。身体抑制時のδ波の出現百分率は非抑制時のそれより小さく、逆にα波の百分率は大きかった。身体抑制時と非抑制時のδ波およびα波の出現百分率の差は、測定開始後1時間30分経過以後が最も顕著であり、1時間から1時間30分にかけては有意な差ではなかった。性別でみると、男女は女性より上記の差が大きく、特に1時間30分経過した後の差が大きかった。測定順序の違いによる影響は認められなかった。
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