暖房室(20℃)に設置した暖身器具のひとつである炬燵で十分身体を暖めたのち、非暖房室(10℃)に入室し、10分後に出室、暖房室に移動するという日常生活に近い状況に実験条件を整えた。この間の高齢被験者と若年被験者の皮膚温等についての比較検討を行った。結果を要約すると下記の通りである。 1.皮膚温について炬燵で暖まった下腿皮膚温と、露出している前腕皮膚温に、若年者とは異なる変動がみられた。 (1)非暖房入室後、高齢者は下腿皮膚温の低下が若年者に比較して少なく、出室後の上昇も小さかった。若年者について高齢者と同じ着衣での追加実験を行ったが、同様の結果が得られた。 (2)高齢者の前腕皮膚温は出室後も低下を続け、回復が遅れた。 2.若年者の最高血圧は非暖房室入室後上昇し、出室後低下するが、高齢者の場合は個人差がみられ、中には入室後、急激に上昇する被験者もいた。また、暖房室に戻ってから元の値に戻るのに高齢者の方が時間を要した。 3.口腔温については両群間にほとんど差は認められなかったが、脈拍については非暖房室入室直後に高齢者の方が急激に上昇した。 4.感覚評価においても両群間で違いがみられた。すなわち、温冷感・快適感とも非暖房室入室後、高齢者の方が遅れて冷感・不快感を感じ、非暖房室出室後はすぐに温感・快適感を感じる傾向があった。 このように、わずか10℃の温度差の温熱環境の異なる環境下で、また、10分程度の寒冷曝露であっても、生理的にも感覚的にも若年者と異なる結果が得られた。しかし、被験者の人数が十分でないこと、また女性だけの被験者であったことなどから、今後、被験者数の増加と男性被験者の追加を行うことによって、高齢者の温熱適応と暖身器具との関連について検討を加えていきたいと考えている。
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