研究概要 |
鶏卵,牛乳は乳幼児の二大アレルゲンであり,これら食品素材はそのまま利用されるばかりではなく,各種の加工食品にも利用されているが,それらの調理・加工品のアレルゲン活性はほとんど調べられてこなかった.そこで,小麦粉を主原料とする加工食品としてパンやパスタを調製して鶏卵や牛乳中の代表的なアレルゲンタンパク質の動向を検討した.鶏卵白添加パンを調製して,卵白の代表的なアレルゲンであるオボムコイド(OM)に対する特異抗体を用いて,OMの抗原性の変化を検討した.混ねつ,発酵過程,即ち,ドウの状態ではOMの抗原活性が残存したものの,焼き上げてパンにするとその抗原性は完全に消失した.次いで,スキムミルク添加パンを調製し,β-ラクトグロブリン(β-LG)特異抗体を用いて,パン調製過程におけるβ-LGの動向を検討した.β-LGもOM同様に混ねつや発酵過程ではその抗原性が残存したものの,焼いてパンにすることによって,その抗原活性は完全に消失した.このように,アレルゲンタンパク質が塩溶液で溶出されなくなったパンから,SDSおよびSDS+2-メルカプトエタノール溶液でタンパク質を抽出し,それぞれの特異抗体を用いたimmunoblottingで各アレルゲンタンパク質存否を実験したところ,SDSでは抽出されなかったものの,還元剤存在下ではOMもβ-LGも検出された.この結果は,分子内に9個のS-S結合を持つOMや2個のS-S結合を持つβ-LGは,共に小麦タンパク質と-SH,S-S交換反応によって変性・不溶化したものと考察した.次いで,鶏卵白を添加したパスタを調製した.パスタを10〜50分間混ねつ後,1時間寝かせ,沸騰水中で15分間茹でた.混ねつ20分以下のパスタからは茹で汁にオボムコイドが溶出したものの,混ねつ30分以上のパスタからはオボムコイドはほとんど溶出せず,茹でたパスタにも残存しなかった.
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