研究概要 |
本研究は,高齢者の「生きがい」と「自然遊」(ハイキング・登山・温泉)の関係を,荘子の「逍遥遊」,エリクソンの「英知」,および,神谷の「生きがい」の概念,および,市川浩と湯浅泰雄の身体論の検討による分析枠組みから,質問紙,ディスカッション,参加観察,インタビュー,手記,感想文,ビデオ収録等の多様な方法を用いて考察した.その結果,次のような事がらが明らかになった. 1)ハイキング・登山の実践者は,一般の高齢者に比べて,積極的なライフスタイルと強い自然志向のレジャー・スタイルを持っている. 2)これらの高齢者の生きがいには,少なくても3つの重要な価値意識が存在している.すなわち,「生ける身体の拡張」による寿の保持増進,自然や仲間との「かかわりあい」による世界の拡大,そして,自然体感における感動を通じての自己の新しい課題(自分さがしへの旅)の発見である. 3)自然遊としての高齢者のハイキング・登山は,少なくともこれら3つの価値の追及の場を提供している点において,高齢者の生存充実感(生きがい)に深く結びつき得る大きな可能性を持っている. 4)高齢者にとって,老人福祉(健康温泉)センター,クアハウス,および,温泉観光旅行は,健康,仲間,楽しみの欲求を充足させる点で,その生きがいの重要な要素であるし,また,生きがいそのものでありうる.湯浅の身体論でいえば,これらの温泉における高齢者の身体は,主として,意識的な,第1の「外界感覚-運動回路」に関連している. 5)温泉場に住む高齢者の「湯浴みの習慣」は,意識下における身体の記憶として深く内面化されており,また,そこでの湯浴みは,生活の一部として,高齢者の「生」そのものの重要な部分を担っている.その身体は,主として,意識下の「体性内部感覚」(ソメステ-シス)や「全身内部感覚」(セネステ-シス)に関連している. 6)湯治における高齢者の湯や自然との感応は,主として,身体の最も深い「情動-本能回路」にまで関連するものであり,それを通じて自律神経系の機能を高め,その自然治癒力を再生している. 7)温泉をめぐるさまざまな自然体感は,高齢者の身体そのものに直結する個人的価値,すなわち,「生命」もしくは「寿」の価値を持つものであり,高齢者の生きがいにとって極めて重要な身体の基礎的要因であり,生きがい感の源泉である.
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