研究概要 |
本研究の目的は,歩行中のつまずきから転倒にいたる動きの実態をバイオメカニクス的にとらえ,転倒防止のための基礎的知見を得ることであった.そのため,歩行中の障害物を回避する動作(またぎ越し動作)を青年(男性12名)および高齢者(男性25名)に行わせ,バイオメカニクス的に分析した. 主な結果をまとめると,以下のようになろう. 1.障害物高が増すと,歩行速度は両群とも有意に低下した.しかし,クリアランス高は統計的には群間,障害物高間とも有意差はなかった. 2.障害物高が増すと,両群とも下肢関節の屈曲が大きくなり,下肢,大腿の挙上が増大した.高齢者では,上肢の振りが小さく,High試技において接地後体幹の前傾が大きくなった. 3.支持脚の鉛直地面反力の変化は,青年群では歩行よりも顕著な2峰性を示したが,高齢者群では,青年群と同様の変化を示すものと,あまり顕著な落ち込みを示さず,プラトーを示すものがみられた. 4.クリアランス時にはまたぎ越し脚における股関節の伸展トルクが優位であった.両群とも障害物高が増すと,股間節におけるクリアランス時の伸展トルクによる負のパワー,足接地前の屈曲トルクによる負のパワーが増大した.一方,支持脚の関節トルクパワーは自由歩行のものと類似したものであった.また,股関節まわりの力学的仕事が青年群で大きかった. つまずきへの対応動作との関連を考慮すると,高齢者のつまずきによる転倒を防止するには,1つには,股関節まわりの筋群の筋力低下を防ぐことが役立つと考えられる.また支持脚が障害物を越えるとき,体幹の前傾が大きくなり,バランスを崩し易い傾向があることなどが示唆された.
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