研究概要 |
1.研究目的:インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)は運動療法の適用と考えられ,多くの糖・脂質代謝改善症例が報告されている。一方,DM患者には網膜や腎糸球体等の細動脈血管系病変が合併し易く,糖尿病性腎症増悪により透析療法を導入した者は,1994年には全透析患者数の31.9%にも及んでいる。糖尿病は運動療法の適用とは言え,運動時には腎機能が抑制され,腎症を合併したDM患者の運動療法に際しては運動による腎障害発症の回避が必須となる。そこで,本研究ではヒトのNIDDMモデルであるラットに対し運動療法を施行し腎臓への影響を調べることにした。 2.研究方法:被検動物としてヒトNIDDMモデル雄性ラット30匹(ZuckerまたはOLETFラット;Ex群15匹,Cont群15匹)および正常対照安静ラット15匹(NC群)を用いた。10週齢から実験室で飼育し,21〜30週齢まで尿検体採取装置付き回転ケージ(シナノ製作所)を用い自由運動を課し,回転数(運動量)を記録した。また,飲料および粉末飼料(CE-2;日本クレア)を自由摂取させ,残量を秤量し一日あたり摂食量を求めた。尚,実験期間中は朝6時から夕方6時までの12時間を明期,他を暗期とし,飼育室温は23.0±2.0℃(湿度55〜70%)に維持した。体重,血圧(SoftronBP98)測定および採尿は,10,15,20,23,26,29,30週齢時に行い,糖負荷試験はトレーニング終了後に行った。ブドウ糖1g/kgを胃ゾンデを介して経口投与(OGTT)し,眼静脈から投与前,30,60,120分後に採血しIRIおよびBS濃度を測定した。糖負荷試験終了1週間後にネンブタール麻酔下で放血,屠殺し各臓器重量測定後ホルマリン固定し,病理標本を作製した。ヘパリン採血した検体を用い,血液学的成分(RBC,WBC,PLT,Hct)および生化学的成分(TC,TG,HDL,-C,クレアチニン(Cr),尿酸)を測定した。尿成分は,電解質類,アルブミン(uAlb),β_2ミクログロブリン(β_2M),Crおよびカテコールアミン濃度を測定した。 3.研究結果および結論:10,15,20週齢時の体重は,NIDDMモデル群398.6±15.5,496,9±41.2,527.9±22.3g,正常対照ラット群は305.4±21.7,391.6±27.4,423.8±38.0gで,いずれの週齢時でもNIDDMモデル群が有意な高値を示した。10週齢時の収縮期/拡張期血圧および心拍数は,NIDDMモデルラット群では135.6±3.1/113.7±4.5mmHg,400.1±32.1拍/分で,2群間に有意差はなかった。しかし,NIDDMモデルラット群の20週齢時の血圧,心拍数はそれぞれ146.9±9.1/120.4±10.1mmHg,398.5±41.0拍/分であり,血圧が有意に上昇した。しかし,対照ラット群では10週齢時と20週齢時の血圧,心拍数にはまったく差がなかった。NIDDMモデルラット群の尿中アルブミン(uAlb)排泄量は,対照ラットと比較し15,20週齢時には有意な排泄高値を示した。21週齢から30週齢で10週間におよぶトレーニング期間中のEx群の体重増加はCont群に比較し僅少であり,uAlb排泄量も減少傾向にあった。しかし,血圧変化には明確な差異はみられなかった。一方,10週間のトレーニング終了後に行ったOGTTの結果は,Ex群の方が正常対照ラット群のそれに近似していた。また,腎臓の病理標本を観察した結果では,Ex群とCont群の間に明確な差異は認められなかった。以上のことから,運動トレーニングによって糖代謝の増悪が抑制され,尿中アルブミン排泄が僅少になったものと解釈される。
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