ヒトの随意運動の発達学研究(motor development)は、階層的動作の分類から始められてきたが、最近ようやく脊髄はもちろん脳の階層的発達のプロセスが明らかにされつつある。運動の発達が成人のパターンに至るまでには、何段階かの中枢神経系の階層的構築の発達(変容)が必要である。熟達した運動の階層的制御システムは、運動領野、感覚領野などの中枢が主役(メインプログラム)であるが、補助的役割をもつ脊髄系(サブプログラム)から成るシステムも重要な働きをしている。そこで脊髄系のサブシステムと上位中枢のメインシステムの機能的変化を加齢段階で検討し、成人との違いを明らかにすることで、脊髄回路の階層的構築の加齢段階を予測することが本研究の目的である。 実験1として脊髄系のサブシステムの加齢過程を知るために、H波を成人健常者(40才以下)及び高齢者(65才以上)を対象に脛骨神経の電気刺激により減少が下肢筋(ヒラメ筋、腓腹筋)より導出した結果、高齢者(65才以上)においてH波の振幅の減少が認められた。 実験2として中枢(メインプログラム)の加齢過程を知るために振動刺激時の肘関節伸展運動の制御機構について検討した結果、成人健常者及び高齢者間に運動知覚の歪みの違いは認められなかった。 以上実験1、2の結果より、加齢段階における運動制御機構の階層性について検討を行った結果、加齢過程において運動制御機構の階層性に加齢的変化が起こることが明かとなった。
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