本研究は、高齢者のバランス調整力低下の防止策を講ずる基礎資料を得ることを目的に、一般在宅高齢者とスポーツ教室参加の60歳以上の高齢者を対象として、運動習慣(短期・長期)が、片足立ちや重心動揺(平衡性)およびその他の体力要素に及ぼす影響を検討し、また過去の転倒経験との関連について検討した。 高齢者向けの健康体操、太極拳、球技、ダンス、エアロビクス等の運動を週1回、約1時間程度、8週間行っている者(短期)と、同様なベースで半年から3年に亘り運動を継続している者(長期)を対象に測定を行った。 1.運動習慣の長期効果:(1)年齢階級別体力は全て加齢変化を示すが、これらの値は一般在宅高齢者よりも全項目で高値を示した。(2)運動種目別体力は、男女とも閉眼片足立ちと垂直跳びに種目群差がみられ、女性の場合、閉眼片足立ちは太極拳とダンスで、垂直跳びは球技とダンスで高値を示した。(3)片足立ちと他の体力要素との関連では、両片足立ちは女性の場合すべての体力要素と有意な相関を示した。(4)重心動揺距離は、男性のみ閉眼でr=0.707(P<0.01)、開眼でr=0.820(P<0.001)の有意な加齢変化を認めた。(5)太極拳の経験年数と閉眼重心動揺距離との関連では、女性において有意な減少(r=0.762、P<0.01)を認めた。(6)過去1年間の転倒経験に関しては、体力要素との関連はほとんど認められないが、女性において太極拳経験年数や総括動時間で有意な減少を示した。2.短期効果:(1)年齢階級別で閉眼片足立ち、体前屈、垂直跳び、握力に有意な差を認めた。(2)参加前後の体力を比較すると、修了時にわずかな向上がみられ、ステッピングと息こらえでは有意な差を認めた。 これらのことから、高齢者での平衡機能維持のためには、下肢を中心に全ての体力要素を適度に使う運動が望ましく、太極拳やダンスのような運動様式の長期継続がより効果的であることが示唆された。
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