東北地方の「産業の空洞化」の実態を把握する目的で、宮城県南端部に位置する角田盆地を調査地域にして、進出工場の近年の動向について聞き取りおよびアンケート調査を実施した。調査結果の要点は次の通りである。 (1)角田盆地の工業化を牽引した工場は東京に本社を置く電子部品メーカーと自動車用気化器メーカーの拠点工場であった。両工場の従業者数は1990年現在千人規模であった。しかし、電子部品メーカーの工場では、1990年代前半期に従業者の約40%が減少した。その直接的要因は生産の海外移転と組織機構の再編であった。ただし、当社の場合、角田工場の管理部門の縮小は宮城県古川市に立地する工場への統合であって、生産拠点としての宮城県の位置づけは低下したわけでない。自動車用気化器メーカーの場合は、従業員の大幅な減少はなかったものの、北米での生産拠点の開設などにより角田盆地での生産規模の拡大が望めなくなっている。しかし、当該メーカーの場合、研究開発部門を角田に配置するなど、当社の事業所配置にあっては角田盆地は重要な生産・開発拠点となっている。 (3)早くから進出した工場では従業員の減少が見られたが、当地域には依然として工場進出がみられる。そのなかには、本社機能を備えた従業員規模500人のプラスチック製品メーカーの進出がある。当メーカーを除くと、1990年代に進出した他の工場は小規模であるが、それらは隣接地域に進出している大規模工場との関連で立地した工場、および東北地方への商品供給を目的とした工場などであって、角田盆地の工業は多様化しつつある。
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