研究概要 |
本研究の目的は,野外においてビ-チカスプの成長・発達過程を連続して記録するシステムを確立し,これを用いてカスプ地形の形成メカニズムを明らかにしようとする目的で野外実験を実施するものである。発達・成長過程を調べるためには,初期地形が単純であることが必要条件となる。そこで,この実験では人工的に汀線付近の地形を滑らかにして,初期の境界条件を単純化する。カスプが形成されるまでの時間的変化を連続して調べることによって,入射波浪・堆積物・地形の相互の関連性を探究し,カスプ地形形成の原因を明らかにする。このシステムは,カーボン繊維製の軽量な竿の先端にCCDカメラを吊るし,これがとらえた映像を地上のビデオレコーダーに記録するものである。このシステムを用いて野外実験を琵琶湖の近江舞子,猪苗代湖の長浜,真鶴半島の番場浦の三ヶ所で実施したが,番場浦を除いて,水上スキーや観光船が起こす擾乱波のためカスプの形成場が乱され,良好なデータを取得することは出来なかった。番場浦(堆積物の粒径4cmの礫浜)は太平洋岸にあるため潮位差の影響を受けるが,出来る限りこの影響の小さい時のデータを入射波浪の特性と遡上波の挙動との関連で解析した結果,カスプ形成機構に関して広く受け入れられているエッジ波理論は全くあてはまらないことが判明した。礫浜でのカスプの発達過程を連続的に捉えた映像を用いつつ遡上波の挙動に焦点をあてながら,この理論の妥当性を検討した例は今までない。この研究の結果から,カスプの形成に堆積物の移動が必要不可欠である点を無視しているエッジ波理論の欠陥が浮き彫りにされたといえる。
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