研究概要 |
チョウセンゴヨウの現在の分布を明らかにするために,内外の文献をレビューするとともに,本州中部八ヶ岳で分布調査を行った.わが国における分布は本州中部山岳にほぼ限られ,コメツガと混交する.いっぽう,北東アジア大陸部では沿海州から中国東北地方,朝鮮半島北部にかけての広大な地域で量的に多く分布し,優占林を形成する.それらは森林構造,更新動態からみてチョウセンゴヨウの極相林である.また,垂直分布は山地帯がむしろ主体で,そこでは落葉広葉樹と混交する.北東アジア大陸部での分布と比較すると,わが国のチョウセンゴヨウは,垂直分布域の下限を山地帯性の樹種に占拠されて亜高山域に追い上げられた形となっている.しかし,亜高山域でもコメツガにはばまれて優占林は形成できず,分布量は限られる. わが国におけるチョウセンゴヨウの分布変遷を明らかにするために,西南日本で採取した前期更新世寒冷期の大型植物化石群から古植生を復元した.植物化石群にはチョウセンゴヨウが優勢に含まれるほか,バラモミ類,シラビソ類などの亜寒帯性針葉樹群が卓越していた.こうした植生は東北日本からも記載されており,最終氷期にはチョウセンゴヨウや亜寒帯性針葉樹が優占する森林が,わが国に広く分布していたことが明らかとなった.この森林は現在北東アジア大陸部に分布するチョウセンゴヨウ優占林ときわめて類似している.わが国にも最終氷期には現在大陸でみられるような森林が卓越していたことがわかる.その後,後氷期の温暖,多雪化に伴い,わが国ではチョウセンゴヨウは亜高山域の岩礫地に追いやられたと推定される.現在八ヶ岳西岳の西南斜面に分布するチョウセンゴヨウ二次林は,こうした分布変遷を生き延びた最終氷期の遺存植生と考えられる.
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