物理の学習においては、物理現象を支配している基本法則を理解して、その法則をさまざまな系に応用できる能力を身につけることが必要である。基本法則のより深い理解を得るためには、単に規則を丸暗記するのではなく、実験を通して学習者自らが規則性を発見する学習が望ましい。また応用能力は多くの事例に対して法則の適用を繰り返すことによって得られる経験的な知識であると考えられており、獲得には訓練が必要である。本研究では、初等力学を対象として、基本法則の発見学習支援と、系に働く力の因果構成を理解する能力の獲得を支援する学習支援システムについて研究を行った。 力学の学習支援を行うには、支援システムが与えられた系に働く力の発生原因、力間の関係を認識する必要がある。このために、力学系が与えられたときに、系を構成する部品と系に働く力間の関係を表現する因果関係モデルと呼ぶネットワーク構造を提案し、その生成方法を明らかにした。 基本法則の学習にあっては、シミュレータを用いた実験を行いながら、観測値を表に書き込み、観察、予測、確認を通して独立変数と従属変数間にある規則性を発見する環境を用意した。この一連のプロセスの中で学習者の行動をモニターし、学習者が行き詰まった場合には助言を与えることで、目標へと誘導する。この方法に基づく学習支援システムの有効性を確認するために、中学校物理のバネを対象にして実際の実験装置を用いて学習する場合との比較学習実験を行い、システムの有効性を確認した。 応用能力の獲得支援については、グラフィック・インタフェース上に図示された力のベクトルから学習者の力に対する認識をモデル化して理解因果関係モデルと同様の構造で表現し、システムが生成した正しい因果関係モデルと比較することで学習者の誤りの原因を同定し、治療手段を決定する方法を明らかにした。
|