研究概要 |
子どもはすばらしい学習力をもつ存在であるという立場に立つ数学教育学者に,Gattegnoがいる。氏の教育論・認識論は今日の数学教育の常識と大きく離れているためか,世の関心を集めることは少ない。しかし氏の思想はこれからの数学教育に大きな示唆を与えてくれるものと確信している。そこで本年度は「数と計算」に焦点を当て,数指導の目標・指導理念を検討し,本学部紀要に「ガテ-ニョの認識論(I)」としてまとめた。そこでは氏の認識論が,伝統的な認識論とは全く異なっており,子どもが胎児期からもっており,しかも成長するにつれて強化されていく「精神の力」を前提とし,それに基づく認識論であり,その特徴は「自己教育力をもつ人間」「気付くこと,という精神の力」「時間の階層」という文言でまとめることができることを指摘した。 またCuisenaireが発明し,Gattegnoがその理論化を行った「色棒」を購入し,広島大学附属東雲小学校の児童に,附属教官の援助を受けながら実地指導を行った。まず,命数法は言語の問題であるというGattegnoの主張を確認するために,小学1〜2年生に,氏に固有な指導法に基づいて,14桁の数の読み書きの指導を行った。この指導は3時間もあれば児童は完全に習得できることが分かった。もちろん,もう少し時間を置いて記憶の保存の状態を調査する積もりである。また色棒の操作は,児童に様々な数学的関係を見つけ出させることが明らかになった。これらの実施指導はまだトピックス的な扱いであり,体系的な指導とその効果の考察は,今後の課題である。
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