本研究は、子どもの日常的社会認知の姿を調査によって実証的に明らかにすることを目的としている。特に、本研究では、1)子どもが商品の価格を説明する際に用いる論理を抽出すること、2)さらに日常的に見聞している商品売買において取り引き主体間の関係をどう認知しているかを明らかにする調査を実施した。調査対象児童は、長崎市内公立小学校の第2〜5学年の561人である。調査の概要は以下の通り。 1)まず、子どもが日常生活において獲得している商品の実際価格の情報と、需給関係による商品価格の変化の論理的推論との関係を調査した。その結果、双方に有意な関係は見出されず、子どもの経験的知識への固執が経済的推論を阻害するという仮説は棄却された。 また、日常的文脈で価格決定をする問題で、単純に需給関係で意思決定できるものと、道徳的な判断などを経済的外な要因を織り込ませて単純に需給関係のみで判断できないもの(例えば、〜が困っている)との2つで期待した正反応率を比較した。その結果、後者の値が格段に低くなり、価格決定という意思決定場面では、子どもの判断は経済外的な要因に影響を受けることが明らかとなった。 2)商品売買における取り引き主体間の関係は、販売価格と仕入価格をどう認知しているかによって調査した。その結果、コスト=価格とする数的一致で両者を捉えている子どもが多く、両者の違いを認知できるのは第5学年でも半数程度であった。 以上より、本研究では、子どもの日常的社会認知は、単純に経験的知識や純粋な概念の適用によって形成されるものではなく、様々な要因によってバイアスがかかって形成されていることが明らかになった。
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