研究概要 |
[目的・意義]胸部X線像および胸部CT像における肺野末梢部肺癌の検出を目的とした自動診断において、偽陽性陰影の鑑別は腫瘤影の検出と共に重要な問題である。しかし,X線認識学的研究において、肺血管影は,腫瘤影と近似した出力値を示し,画像解析的な手法のみで鑑別することは困難である。本研究の目標は,三次元的な解剖学的知識ベースを構築・導入し,医師の読影形態により近付けたシステムにすることにより,より精度の高い肺血管の自動抽出および孤立肺腫瘤影との鑑別を可能にすることである。[方法・成果]1.解剖学的知識ベースの構築血管影の解剖学的分岐形態を反映するように肺門部から末梢の血管影まで,各血管影を長さと方向および連続する血管影の情報を持つ解剖学的知識ベースを構築した。知識ベースのモデルとしては,Yamashitaの肺血管動静脈分岐型のうち頻度の高い分岐系の組み合わせを用いた。長さは,右主気管支の長さを3単位とし,各血管の長さをその長さに対する比率で表した。方向は左中右,前中後,上中下の組み合わせの内,中中中を除く26方向で表した。連続性は中枢側から末梢側へ親-子・同胞-孫の順番で,血管と血管の関係を記述した。2.解剖学的知識ベースを用いた肺血管構造の推論機構上記の解剖学的知識ベースを基に,長さ・方向・連続性を記述することにより,記述された血管影が何であるか類推する推論機構を作成した。胸部ヘリカルCT像を用いて,血管の推論を行なった。長さ・方向・連続性のみでは,全ての肺血管を単一に同定しえなかった。3.肺腫瘤影の自動抽出システムの構築現在,胸部ヘリカルCT像を用いた肺癌陰影の自動抽出ソフトウェアの開発を行なっている。腫瘤影検出には,胸部単純像上で肺癌陰影検出用に開発した指向性コントラストフィルター(DCF-N)のパラメータを変更して用いた。30mm以下の肺腫瘤影の検出率は87.5%であるが,腫瘤影と同時に検出する偽陽性陰影が多数あることが問題になっている。今後このシステムに血管構造の情報を加えることにより,偽陽性陰影の削減および腫瘤影の質的診断に寄与することができる。[まとめ]現時点では,自動認識の段階が不十分であることが分かった。不足していた情報は,血管の分岐型が多種類あるにも関わらず,1種類のモデルを基本にしたので無理が生じた。肺静脈と肺動脈で同じような分岐構造をしたものに対して,長さと方向および連続する血管影の情報だけでは単一の解ではなく複数の解が存在し,血管影を特定できない場合があった。医師の読影手順と比較して,左右肺,上葉,中葉,下葉などの位置に関する情報が不足していると思われた。肺腫瘤影の検出率に関しては,今回検討した腫瘤影の様に,三重円構造をもつ肺腫瘤影に関しては可成の精度で検出可能である。
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