研究概要 |
1960年代後半,米国のARPANETから始まった計算機ネットワーク環境は,今やインターネットとして地球規模に発展し,今日では,単なる計算機ネットワークというよりも,マルチメディア情報システムとして機能している.World-Wide-Web(WWW)やMulticast Backbone(MBone)などにみられるその応用は,通信というよりは,より放送的で,マスメディアの様相を呈してきた.このような環境下では,今までの文字やソフトウェアなどのデータ転送を中心としていたネットワークでは経験のない,新しい形の脅威が存在する.本研究では,そのような脅威のひとつである 識閾(しきいき)下効果による脅威とその対策について考察を行った. 平成8年度は,5月はじめに行なわれたIEEE Symposium on Security and Privacyで本研究課題について簡単な発表を行なった際得られたフィードバックに基づいて,問題定義と,マルチメディアのセキュリティ分野における本研究課題の位置づけなどの研究を主に行なった. 識閾下効果については,文献調査の結果,30年前には,小数派がその存在を主張していたが,現在では,その効果を認める学者が主流派となっており,実験心理学,心理的治療や教育などで使用されていることがわかった. 識閾下効果問題は,トロイの木馬問題と同等であるという考えに至った.これらの問題は,情報隠蔽の一例ととらえることもできるが,情報受信者はその存在に気付かないという点で,事前に受信者と送信者の間に通信路の存在に関しての合意がある潜在通信路とは本質的に異なる. 平成9年度は,画像符合化などの手法を学ぶと共に,主にインターネット環境における映像情報に識閾下メッセージ挿入などの手法とその対策について研究を進めた. 平成10年度は,インターネットにおける動画による識閾下伝意の手法として標準化されたMPEG-2を使用する環境を仮定し,動画情報の量子化後に一部画像の挿入を試みた.実験結果から識閾下伝意の検出について考察を行った.当初,検出については独自の画像処理のアルゴリズムの製作を行う予定であったが,画像の符合化および復号のより一般的で現実的なMPEG2を試験的に使用することで,画像挿入の現実的な手法が判明した.検出手法については,挿入手法からの考察により現在開発中である.
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