研究概要 |
本研究では,1980年代を中心に社会変化に伴う従業員の高齢化,定年延長などを背景に,退職金の年金化に取り組む企業が増加している実態と,それに関する開示状況を調査分析した。その結果,年金を含めた退職金のキャッシュフローの企業経営への影響はますます大きくなっているはずであるが,その開示の詳細さのばらつきは大きく,開示情報をそのまま一様に企業評価に反映させることはできないことがより明らかになった。年金費用・負債に関する開示が最も進んでいる上場企業群,すなわち米国SEC基準で連結財務諸表を作成している企業群について分析した結果,年金負債の総資産に対する影響は企業評価を変えるほど大きいことがわかった。さらに連結財務諸表を日本国内基準で開示している上場企業の退職金・年金についての開示情報を調査した結果,開示情報の不足を補うために,調査結果にもとづいた企業資本計算式による企業モデルを作成し,シミュレーションをおこなった。企業の開示情報からシミュレーションに必要な変数の推定値を求めるために,Z変換などの工学的手法を用いた。シミュレーションからは,企業の退職金年金政策が税法や年金利率などの違いによって,企業評価につながる企業資本構成の変動におよぼす影響が求められるとともに,開示すべき情報の重要性を提示できた。さらに,年金・退職金にかかわる開示情報に直接影響をおよぼすところの,平成10年度の税制および企業会計制度の変更にともなう,会計手続の選択・変更に関する企業行動の分析にそなえて,会計手続変更の決定時点の分析をおこなった。その結果,改訂企業会計制度において予定されている,中間連結財務諸表の開示を義務づける変更の推進につながる実証を得られた。
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