研究概要 |
エネルギー問題や地球環境問題を解決するために、クリーンで無尽蔵な太陽エネルギーを利用した太陽光発電が注目されている。この太陽光発電を実用化するためには、低価格で高効率な太陽電池を開発することが重要である。本研究では、理論的に最適なバンドギャップを持つ太陽電池用カルコパイライト型多結晶薄膜Cu(In,Ga)Se_2の結晶粒径の増大化を試みるとともに、結晶粒の成長過程を明らかにすることを目的として実施した。Cu(In,Ga)Se_2化合物を基板加熱を行わないで真空蒸着させたプリカーサを用いて、飽和セレン蒸気圧中で結晶化させることにより薄膜を作製し、その基礎特性を評価した。電子プローブ微小分析やX線回折から、これらの薄膜はシングルフェイズでカルコパイライト構造を有していることがわかった。走査型電子顕微鏡観察により、飽和セレン蒸気圧中で結晶化させたCu(In,Ga)Se_2薄膜の結晶粒の増大化が、セレン蒸気なしで結晶化させた薄膜と比較して、顕著に認められた。その結晶粒の大きさは1μm以上で、膜内に均一に分布していた。電気特性や光学特性の評価から、ホール移動度の増加も認められ、太陽電池で最適な領域のバンドギャップである1.4eVが得られた。さらに、上記プリカーサを結晶化する際の熱処理温度を200℃〜600℃まで変化させて、作製し、結晶の成長過程を調べた。400℃以上で結晶化させた薄膜は、シングルフェイズのカルコパイライト構造Cu(In,Ga)Se_2であったが、300℃以下ではCu-Se化合物で構成されていた。Cu(In,Ga)Se_2薄膜の結晶粒の大きさは、熱処理温度の上昇とともに増大した。特に、600℃で結晶化させた薄膜で2〜3μmの大きな結晶粒が得られた。以上のことから、大粒径で最適なバンドギャップを持つCu(In,Ga)Se_2薄膜を得るための結晶化条件が明らかになった。
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