研究概要 |
(1)関東甲信地方の自然渓流水中のNO_3^-濃度を多数調査し,その広域分布を明らかにした。その結果,少なくとも関東周辺域に関する限り,森林渓流水中に高濃度のNO_3^-が含有されるという現象が一般的に見られるという実態が明らかになった。いずれの地域でも低標高で濃度が高く,高標高の渓流で濃度が低下する傾向があった。大気汚染の影響の大きいと予想される地域で濃度が高いという関連性も認められた。 (2)渓流NO_3^-レベルとの関連が考えられる流域土壌の化学的性質について検討した。土壌分析の結果,a)土壌中でNO_3^-として窒素が存在している割合は土壌のC/N比の増大に伴い低下する,b)土壌C/N比は寒冷な地域ほど増大する,という2つの事実が見出された。 (3)土壌の実験室での培養実験を行い,NO_3^-生成能など生化学性を検討した。その結果,NO_3^-の生成自体も土壌のC/N比に大きく影響を受け,C/N比がおよそ20以上ではほとんどNO_3^-は生成されないのに対し,それ以下で正味の生成速度が顕著に増大することが明らかになった。 (4)渓流のNO_3^-濃度の異なる典型的な4地域の土壌中に温度記録ロガーを埋設し,土壌温度の変化を一年以上の期間にわたりモニターした。解析の結果,NO_3^-濃度の低い地域ほど低温であり,最暖地と最寒地の間では日平均で6.0°C,15°Cを基準とした年間の積算温度量で10.9倍の差があることが示された。 (5)以上の結果から,渓流のNO_3^-レベルは流域土壌のC/N比の高低に依存した窒素循環の違いが関係していると論証できた。しかし,大気降下物が渓流の高いNO_3^-濃度の一因であることもその分布からほぼ確実であった。このことから,大気降下物の影響は渓流だけにとどまらず森林の窒素循環を巻き込んだ全体的なものであると結論された。また以上と関連し,渓流のNO_3^-レベルは流域の窒素循環についての面的情報を与えるきわめて有望なパラメーターであることが明らかとなった。
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