研究概要 |
ポーランド北東部、北西部及び南部の工業地域、農耕地域、都市域及び森林地域で採取した土壌、湖沼底質・沿岸底質さらにポーランドのバルト海沿岸に死亡個体として漂着したネズミイルカ(phocoena phoocoena)等の環境試料を中心に、PCBs,DDTs,HCHs,CHLsなど環境汚染を引き起こす100種以上の有機塩素化合物及び有機態ハロゲン(EOX:EOCl,EOBr,EOl)等について検討した。その結果、PCBsは北西部の港湾都市で比較的高い濃度を示した。特に、造船施設周辺の海底質から高濃度のPCBsが見出された。また南部の石炭鉱業・化学工業地域においても、さらに旧ソ連軍基地跡からも比較的高濃度のPCBsが検出された。検出されたPCBsの化学構造を精査したところ、沿岸海底ではポーランドで製造使用されたChlorofenによる寄与が推定されたが、旧ソ連軍基地跡に関しては旧ソ連において製造使用されたPCBs製品であるSovolによる寄与が可能性として示唆された。DDTsは北部農耕地及び南部の都市域で比較的高濃度が検出された。特に、南部都市域むの方が高い傾向を示した。その原因として、土壌表層に多く含まれる石炭燃焼灰による吸着捕捉が考えられる。特に、土壌・底質等のDDTsの残留組成はp,p′-DDTが優占していた。このことは、ポーランドのような寒冷な気候下では、DDTsは分解し難く、汚染が長期化することを示唆している。EOXは有機溶媒で抽出可能な有機化合物に化学結合するハロゲンとして定義づけられるが、土壌・底質に広く分布していた。ハロゲンの濃度順位はEOCl>EOBr>EOIであった。PCBsなどの既知人工有機塩素化合物とEOClを比較したところ、EOClに占める既知人工有機塩素化合物は極僅かで、いわゆる未知有機塩素化合物が顕著に多量存在することが明らかとなった。これらの未知有機塩素化合物はPCBsと類似する汚染源とプロセスを通じ、ポーランドの環境中に拡散・分布していることが示唆された。これらのPCBsなど既知人工有機塩素化合物や未知の環境汚染物質は、水系を通じ、グダンスク湾を経て、バルト海の汚染を引き起こしていることが推定された。
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