研究概要 |
陸地と海域の接合部である沿岸帯は物質の収支と循環が最も活発に演じられる場所であり,そこでの特に将来長きに亘り環境放射能影響をもたらす長寿命放射性核種,とりわけ超ウラン元素(ネプツニウム(Np),プルトニウム(Pu),アメリシウム(Am))の挙動を系統的・総合的により明確にすることは,環境保全の面からのみならず被曝低減化の面からも重要である。本研究は,イギリスのセラフィールド核燃料再処理工場からの放射性廃液で高濃度に汚染されているアイリッシュ海沿岸をフィールドにIV価のPuやIII価のAmと比べて堆積物に移行しにくいと言われているNpが,どのような堆積挙動をするかを解明することを主目的として実施したものである。主な成果を以下に述べる。 (1)アイリッシュ海東部沿岸の堆積物について,^<237>Npを初めとして^<238>Pu,^<239,240>Pu,^<241>Pu,^<241>Am,更に^<99>Tcを測定し,汚染レベル・分布・蓄積量を明らかにした。 (2)再処理工場からの1989年までの全^<237>Np放出量を初めて6-8TBqと推定した。 (3)放出口からの距離と上記核種の蓄積量との比較から,^<239,240>Pu=^<241>Am<^<237>Np<^<137>Cs<^<99>Tcの順に堆積物に移行しにくいことを明らかにした。これらの挙動の違いはそれぞの元素の酸化状態の違いによって説明される。 (4)アイリッシュ海に放出された上記核種の沿岸帯への移行には主として2つのメカニズム,すなわち,溶存状態として海流・潮汐にのって拡散(solution transport)する場合と放出口近傍で高濃度に汚染された堆積物粒子が拡散(particle transport)する場合がある。どちらかと言うと,^<99>Tc,^<137>Csは前者,^<237>Np,^<239,240>Pu,^<241>Amは後者のメカニズムで移動し空間的・時間的分布を規定していることを明らかにした。
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