研究概要 |
酸性雨による土壌の酸性化が進行すると,土壌間隙水や地下水中に毒性の強いアルミニウムイオンが溶出し,森林水圏の生態系に重大な影響を及ぼすことが懸念されている。一方,森林水圏系に溶出したアルミニウムイオンはフルボ酸やフミン酸などの有機配位子と錯体を生成する。毒性の面からは、アルミニウムイオンと比べてこれらの錯体の毒性は極めて弱いことが知られている。また、アルミニウムの環境動態の面からは溶存有機物と錯生成することで移動しやすくなる。しかし,不溶性のフミン酸に結合すれば難移動性となる。このような観点から本プロジェクトでは,(1)溶存錯体の生成に関して一連の脂肪族及び芳香族カルボン酸とアミノカルボン酸との溶液内相互作用,(2)不溶性フミン物質への結合モデル系として,キレート樹脂,イオン交換樹脂に結合したアルミニウムについて研究した。 (1)については、酸性条件下でアルミニウムイオンは単座配位子とは強い相互作用はせず、2座配位子とキレート錯体を生成した。その安定性は5員環のものが最も安定で員数が増加するにつれて急激に安定性は減少した。酸性条件下でのアルミニウムイオンと有機配位子の錯生成はキレート効果に大きく影響されると結論できる。また、アルミニウム有機物ーリン酸塩三元錯体がアルミニウムやリン酸イオンの水圏における移動に重要な役割を果たすことが示唆された。 (2)については,アルミニウムイオンはイミノジ酢酸基やカルボキシル基が官能基の樹脂にpH3でも効率よく吸着された。MASNMRスペクトルの測定から、吸着したアルミニウムイオンは単座及び2座の錯体として存在することがわかった。さらに樹脂骨格のベンゼン環から環電流効果を受け,高磁場シフトするアルミニウムが存在することが明らかとなった。
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